1998年の長野冬期オリンピックでは、小中学生や一般の方にスポーツ科学を広げようというオリンピック初の試みがなされました。
日本の40人のスポーツ科学の研究者が30の話題を選び、パネルにしてメインスタジアムのMウェーブに展示いたしました。
大学院の学生4人が常にパネルのそばに立ち、来場者に科学的なテーマについての説明も行いました。
この教育プロジェクトは広島大学の渡部和彦教授が提案し、当時IOCの医事委員会のトップであり副会長でもあったメロード殿下の強い支持を得て実現したものです。
残念ながら、2002年にメロード殿下は肺ガンのため他界されました。プロジェクトのメンバーは「プリンス・メロード記念」として日本語パネルを英訳し、インターネット上に残すことにしました。
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渡部和彦 教授(広島大学)
長野冬季オリンピック
IOC医事委員会
バイオメカニクス研究プロジェクト
スボーツ科学教育プロジェクト代表
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現在、スポーツ科学はどんどん進歩しでいます。
このパネル展示の目的は、オリンピックで活躍する選手の素晴らしいプレイをスポーツ科学の目で見て理解し、おおいに楽しんでもうということです。
そして、君たぢがスポーツを安全に楽しむために、役に立つ情報をたくさん提供することです。皆さんがスポーツをしたり、健康で丈夫な体をつくるためにも、スポーツ科学は、きっと役に立つと思います。
また、オリンピック選手を応援している大勢の人々の活動についても、知ってもらえるとうれしく思います。
ショート・トラック・スピードスケートはイギリスで「アイスホッケーやフィギアスケート用のリンクでもスピードスケートが行えるのではないか」との考えから始まりました。 そして、1938年に世界で初めての競技会が行われました。
オリンピック大会に関しては、1990年のアルベールビルオリンピック大会で初めて正式種目になった新しい競技です。 長野オリンピック大会は第3回目のオリンピック大会ということになります。
歩いたり、走ったり、滑ったり、泳いだりしたとき、ヒトの筋肉は自動車のエンジンの働きをします。
自動車が速く走るとき、エンジンのパワー(馬力)は高くなります。
ヒトが運動するときも同じです。
オリンピックに出場するような優れた選手たちは、筋肉の発揮するパワーが高いといえます。
選手の練習やトレーニングの目的は高度な運動のわざ、技術、を身につけることと、筋肉のパワー発揮能力を高めることです。(図1)
競技スポーツは勝負であり、勝った方がいいということに間違いはないのですが、どうしても勝ちたい、勝たせたいという気持ちが強くなりすぎると、そのためには手段を選ぱないという人も出てきます。
ドーピングとは、スポーツ医・科学の知識を悪用し、競技をするにあたって自分に有利になる不自然なこと、不正なことを実行することです。
多くの場合、特別なクスリを使って実力以上の競技能力を出そうというのがドーピングです。
まじめにトレーニングをしている選手から見れば、これは「ずる」以外のなにものでもありません。
「カチャ、カチャ」とスケートリンクに響く奇妙な音。
スケートの靴と刃(ブレード)が付いたり離れたりするスラップスケートの音です。
長野オリンピック直前の1996年から一流選手がこのスラップスケ-トを使いだし、次々と世界新記録が誕生したため、“魔法の靴”とも呼ばれています。
なぜこの“魔法の靴”スラップスケートでたくさんの世界記録が出るのか、ここではその秘密を探ってみます。
近年のスキー用具の進歩は目覚ましいものがあります。
ビンディングは転倒時にはずれ、けがを防ぐ仕組みになっています.
スキー靴は硬いプラスチック製で足首をしっかり固定し、スキーの板も滑走・回転性能が向上しました。
どんな状況でもターンが容易にできるようになったため、スキーから伝達された力が直接膝に伝わるようになっています。
その結果、むかし多かった足関節捻挫(足首のねんざ)や下腿骨折(すねの骨折)は減少しましたが、逆に膝関節捻挫(膝のねんざ)は増加しています(図1)。
皆さんは長野オリンピックで聖火の点火者を務める伊藤みどりさんのことを知っているでしょうか。
彼女は、1989年の世界選手権大会で、日本人で初めてフィギュア・スケートの世界チャンピオンになりました。 また、前々回の1992年のアルベールビル・オリンピックでは銀メダルを獲得しました。
伊藤みどりさんは、女性として世界で初めてトリプル・アクセルという難しいジヤンプに成功した選手でもあります。
スピードスケート選手は、鏡のように磨かれたピカピカな氷の上で長さ40cm、幅0.9mmのスケートの刃(ブレード)を巧みに操り、時速60kmものスピードを出して優勝を目指します。
ここでは、スケート選手がどのようなテクニックによって速いスピ一ドを出しているのか、また、スピードを出した時、選手の脚にどのくらい大きな負担がかかるのか見ることにします。
スポーツ選手は、対戦相手とだけではなく、自分自身とも戦っています。
この対策としてメンタルトレーニングを行い、自分自身に勝つためにこころを強化しています。
1992年のバルセロナ(スペイン)のオリンピック大会では、メダリストや入賞した選手のほとんどがこのメンタルトレーニングを行っていました。
ここでは自分自身に勝つためのメンタルトレーニングについて紹介しましょう。
スピードスケートや陸上競技の短距離走などの選手は、太いももを持っています。
これらの競技ですぐれた成績を上げるためには、自分のからだを強く加速する必要があります。 加速のスピードは力に比例しますので、競技選手の太いももは、短い時間の間に強い力を出すためのものと考えられます。 このために、競技選手の太いももには、力のもととなる筋肉がつまっているのです。
ここでは、スポーツ競技選手のもものなかがどのようになっているのかについて、核磁気共鳴イメージング(MRI)という装置を用いた観察を中心に説明しましょう。
♦ 太いももを持っているスピードスケートの選手
(写真提供:月間トレーニングジャーナル)
スポーツの試合のまえに、選手はウォーミング・アップをします。
ウォーミング・アップとは、読んで字のとおり、体温、特に筋肉の温度を高めるということで、そのために行う身体運動を準備運動といいます。
それでは、なんのために選手は準備運動をするのでしょうか。
ボブスレーの競技成績は、次の3要因によって決まります。
これらの中でも、特に競技成績を大きく左右するのは、選手のダッシュ力です。
なぜ“ロケットスタート”がボブスレーの競技成績を左右するのでしょうか?
またどのような方法でそれが確かめられたのでしょうか?
ここではタイム分析やスピード測定装置を用いた、わが国の研究について紹介しましょう。
雪道を歩いたり走ったりするのは、滑ったりぬれたりするのでまっぴらだ、と思っていませんか?
雪のある路面を歩く時は、足元が定まらないために転ぶかもしれないという不安感や、足首やひざがねじれて「ねんざ」でも起こしそうな気持がするので、同じ距離を歩くにも雪のない道路よりもずっと疲れるような気がします。
しかし人類が生まれて以来、ほんの数十年前までは、でこぼこ道やぬかるみを歩いたり走ったりする生活が当たり前でした。
現在のようにきれいに舗装された路面しか歩く場所がないとか整地されたグランドでしか運動する機会がないというのは、
たくましく生きていく上ではむしろ恵まれない環境におかれていると考えなければなりません。
スキージャンプでは、ほとんどの選手が両方のスキーをVの字に開いたジャンプをしています。
1992年のアルベールビル(フランス)のオリンピック大会では、出場した選手でV字ジャンプをしている人は半分もいませんでした。
しかし、前回の1994年のリレハンメル大会(ノルウェー)では、ほとんどの選手がV字ジャンプで優勝を競いあいました。
V字ジャンプはどうして遠くまで飛べるのでしょうか?またどの様な方法でそれが確かめられたのでしょうか?
ここでは風洞実験装置という方法を使った、わが国の研究について紹介しましょう。
札幌オリンピック(1972年)のジャンプ競技、ノーマルヒルにおいて日本選手が金、銀、銅メダルを独占したことは、現在でも冬季オリンピックの開催が近づくにつれ話題になります。
さて、札幌オリンピック当時のジャンプ、アルペン、スケートウェアはセーターとパンツの組合せでした。
それ以後、「より速く、より遠く、かつ安全に」を目標に、ウェアの改良・開発がなされてきました。
私たちのからだを直接動かすのは筋肉ですが、その筋肉が思いどおりに動くように命令を与えるのは脳です。
じょうずに動作を行うためには、周りの状況を適切に把握し、どうしたらよいかを瞬間的に判断し、 どのような動作をすべきかを決定して、最適な運動指令を出さなければなりません。
これらはすべて脳で行われているのです。
車いすマラソンとは、事故などで両足が動かなくなる障害のため、車いすを使わなくてはならなくなった人が、 その障害を乗り越え、鍛錬を重ね42.195kmもの距離を車いすで走り抜く、最も過酷な競技です。
スポーツ選手は、がっしりとした筋肉隆々の体型をしています。
しかし、100m選手とマラソン選手を比べてみると、筋肉の太さに違いがあります。
これは、ふだん行っているトレーニングの違いによるものです。
100m選手はランニングのトレーニングに加えて、筋肉に大きな負荷をかけるウェイト・トレーニングを行っているのです。
クロスカントリースキーやマラソンのように長い時間運動できる能力を持久力と言います。 持久力が低ければ、どんなに力が強く、どんなに作戦がすぐれ、どんなに根性があっても長い時間運動するスポーツでは勝つことができません。 水泳、自転車、ボート等の長距離レースにも持久力は大切です。
この持久力は空気が薄い高地に住むと特に高まります。
アフリカのエチオピアやケニアの高地民族が陸上競技の長距離で勝ち続けるのはそのためです。
これらの国から日本に留学して駅伝やマラソンで活躍中の選手もたくさんいます。
スキー、ノルディック複合の荻原選手、そして黄金期を築いた、阿部、河野、三ケ田、児玉選手達、
マラソンの有森選手や浅利選手達も外国の高地へ出かけて、綿密な計画の下に高所トレーニングを実施して活躍しました。
最近、小中学生の身体活動量は少なくなってきていると言われています。 これは、身体活動を伴っての遊びの時間が少なくなってきていることが原因と考えられます。 また、戸外や室内での遊びの変化、生活の忙しさや、遊び場の減少なども深く関わってきているものと考えられます。
ここでは、子どもにとっての遊びの必要性について考えてみたいと思います。
長野市内の小学5年生と中学2、3年生に、歩数計(万歩計)を使って1日の平均歩数を調査した結果は、次のようになりました。
幼稚園児や小学生については、別の調査では平均27000歩ぐらいという調査報告もあります。
高い山から一気に滑り降りる競技をアルペンスキーと呼んでいます。
滑降、スーパーG、大回転、回転、滑降と回転の総合成績で順位を競うアルペン複合の5種目があります。エアロビクスは有酸素運動といわれ、
運動によって身体エネルギーを燃やすための酸素を、呼吸によって体内に取り入れることです。
取り入れられた酸素は肺から心臓、血管そして活動している筋肉へと運ばれます。
図1
エアロビクスとからだ
ノルディック競技とは、ノルウェーを中心に北欧諸国で発達したスキー競技の総称です。
種目には、スキーをつけて長距離を走るクロスカントリー、ジャンプ台から空中へ飛び出すスキージャンプ競技、 そしてクロスカントリーとジャンプを組み合わせた複合競技があります。
スピードスケートでは、選手は抽選により内側(インコーススタート)と外側(アウトコーススタート)に別れ、 2人1組で1周400mのダブルトラックを陸上競技と同じように左回りで滑り、タイムを競います。
コーナーでは内回りのほうが外回りより距離が短くなるため、フィニッシュラインの反対側のバックストレートで インとアウトの選手が入れ替わり、2人の距離が同じになるように滑ります。
誰でも走っている電車や車から頭や手をだして、風にあたってみたことがあるでしょう。
スピードが速ければ速いほど、きつい風を感じます。
中に座っている人は何も感じませんが、車自体はいつも、それだけの風に逆らいながら走っているのです。
そう考えれば、スキーのジャンプの選手が時速90km近いスピードで助走路を下ってくるときに、どれほどの風を受けているかが想像できると思います。
スピードを出すということは、風圧、つまり空気の抵抗との戦いなのです。
[氷上のFワンレース]とも呼ばれ最高時速が140km以上を記録するボブスレーは、 全長1200m以上の凍結した人造氷雪コースを、ハンドルとブレーキのついた鋼鉄製のそりで滑走し タイムを競う競技です。
2人乗りと4人乗りの2種類があり、2日間で4回滑走し、その合計タイムで順位を決めます。 総重量が重いほど加速がついて有利になるため、そりと乗り込む選手の合計体重は、 2人乗りが390kg以下、4人乗りは630kg以下に制限されています。
手足の切断手術は、病気(骨腫瘍や血行障害など)のほかに、交通事故や労働災害、戦争によるけがのために、
やむを得ず行われる手術です。
その結果、手足を失うという障害が一生残ります。
でも、切断手術を受けた多くの人たち(切断者という)は、リハビリテーションをすれば、仕事はもちろん、
さまざまなスポーツを楽しむこともできます。
ジュニアとは、シニアに対して使われる言葉であり、「年少の」「青少年の」という意味です。 ですから、「ジュニア期のスポーツ」とは、大人になる前のスポーツを意味しています。 ここでは、からだの成長が発達途中にあるジュニア期、つまり、小・中学生期のスポーツのありかたについて考えてみます。
わたしたちが健康に生きていくためには正しく栄養をとることが大切です。 とくに成長期にある10代の栄養素の必要量は大人よりも多く、運動をしているひとはさらに多くなります。
健康で強いからだをつくるためには、栄養素の質や量、そして栄養素を摂取するタイミングに気をつける必要があります。
ここでは、スポーツマンにとって必要な栄養素の中でもとくにエネルギー源、筋肉づくり、水分補給に関係の深い栄養素について紹介します。
シドニーの少年・少女に長野からエールを送ろう。
スポーツ科学を愛するともだちへ
「スキージャンプの科学」では、長野オリンピック会場となる白馬のジャンプ台で実際に どのような研究が行われているのか、広島大学の渡部和彦教授が紹介しています。
クロスカントリースキー競技とはどのようなものか、まず最初に同志社大学の 竹田正樹先生が説明します。スキーヤーのポールに加わる力について、北海道大学の 川初清典教授が、またクロスカントリースキーヤーの高所トレーニングについて、筑波大学の 浅野勝己教授が説明します。
アルペンスキーと姿勢について、上越教育大学の三浦望慶教授が説明しています。
スピードスケートで金メダルが期待される清水選手のデータを使って、 自分でも未公認世界記録を持つ筑波大学の結城匡啓さんが話します。
ボブスレーやリュージュ競技で勝ためには、何が必要か、長野オリンピックでは審判 を務める仙台大学の鈴木省三先生が、そのポイントを説明します。
スノーボードとスキーでは力学的にどこが異なるのか、名古屋大学の池上康男先生が 実験結果をもとに説明します。
長野オリンピックでは、IOC医事委員会が、7つのバイオメカニクス研究をおこないました。 委員長のメロード殿下のもと、広島大学の渡部和彦教授が中心となって行ったオリンピック 各会場で研究プロジェクトを紹介しています。
このウェブサイトで紹介されている、スポーツ科学パネルは長野オリンピックの期間中、メインスタジアムである Mウェーブに展示され、大学院の学生さんが常に脇に立って、説明にあたりました。また、長野市内の小学校にも同様の パネル展示がなされ、体育の授業に用いられました。ビデオプラグラムは長野市と近隣の小中学校に600本が配布されました。