誰でも走っている電車や車から頭や手をだして、風にあたってみたことがあるでしょう。
スピードが速ければ速いほど、きつい風を感じます。
中に座っている人は何も感じませんが、車自体はいつも、それだけの風に逆らいながら走っているのです。
そう考えれば、スキーのジャンプの選手が時速90km近いスピードで助走路を下ってくるときに、どれほどの風を受けているかが想像できると思います。
スピードを出すということは、風圧、つまり空気の抵抗との戦いなのです。
100m走を走るだけでも、向かい風が吹くとタイムが悪くなるでしょう。
走るのよりもっと速く動くスポーツでは、空気の抵抗はもっともっと大きくなります。
ですから、スピードスケートやスキーのアルペン種目など、速さを競う競技においては、できるだけ空気の抵抗を小さくすることが大切になります。
スキーのジャンプ競技は速さを競う競技ではありませんが、ジャンプ台から飛び出すスピードが速いほど遠くまで飛べるので、ここでもスピードは大切です。
実際、これらの競技で、どれくらいのスピードがでるのか知つていますか?
空気の抵抗を小さくする方法として、身体を丸めて「小さくなる」ということは、昔から言われています。
これは皆さんも、経験的・感覚的に理解できると思います。
しかし、例えば腕は前にあった方がいいのか、後ろで組む方がいいのか、
また頭や背筋の角度はどれぐらいが一番良いのか、といった細かいところまではわかりませんでした。
しかし風洞実験装置などを使って行われた数々の研究・実験が、これらの謎を明らかにしました。
数字は、空気抵抗の大きさを示しています。
左端の小さな姿勢と、右端の直立した姿勢とでは、実際にはどれほど違うのでしょうか。
例えば小さくなった姿勢で時速100キロ近くで滑っていても、まっすぐに身体を起こして腕を下げるだけで、
スピードは3分の1にまで落ちてしまうのです。
腕のちょつとした位置によっても、空気抵抗はぐっと大きくなってしまうことがわかります。
身体の小さな人と比べると、大きな人ほどたくさんの風を受けます。
空気抵抗は、空気を受けとめる面積が広ければ広いほど大きくなるのです。
しかし、空気抵抗の大きさはそれだけでは決まりません。
空気と水はとてもよく似ていますから、下の絵と同じような流れは、河でも流れるプールでも、台所の流し台でも見ることができます。
風も水も、何かにぷつかっても、それを迂回して流れ続けます。
しかし勢いがついているのでその物体のすぐ後ろには回り込めず、隙間ができてしまうのです。
つまり、そこは周囲よりも空気が少なくなります。
そうすると、空気はたくさんある(気圧が高い)ところから少ない(気圧が低い)ところへ移動しようとします。
この力(赤色の矢印)が、空気が抵抗する力の正体なのです。
この現象は身体で感じることができます。
まず、閉め切った部屋の中で換気扇を回しておきます。 しぱらくして、外からその部屋の戸を開けようとすると、その瞬間に不思議な抵抗を感じるでしょう。 これも、換気扇を回したために室内の気圧が外よりも低くなり、 周りからその部屋の中に向かって空気の圧力がかかるために生じる抵抗で、 空気抵抗と原理は同じものなのです。
一方、物体の後ろ側の空気もここに吸い込まれ、進行方向と同じ方向に引っ張られるので、渦のような空気の流れができます。
ですから渦が発生するのは、空気の抵抗を受けていることの証明になります。
ちなみにこの、空気の流れに引っ張られる力を利用するのが、F1カーレースなどでおなじみの「スリップ・ストリーム」です。
ところが同じように風を受けているようでも、渦が起こりにくいかたちがあるのです。
この二つは、正面から見ただけでは違いはわかりません。
風を受ける面はまるで同じですから、空気抵抗も同じのように思えます。
しかし実は、前ではなく後ろ側に秘密があるのです。
皆さんもおそらく飛行機や船などの後部が、このようなかたちをしているのを知っているでしょう。
このようなかたちにすると、後ろに空気の隙間ができなくなるので、空気の抵抗をよく減らすことができるのです。
このようなかたちをしているのは、飛行機や船などの人工物だけではありません。 空を飛ぶ鳥たちや水中を泳ぐ魚たちなど、普段私達が当たり前のように思つているその姿や形は、 実は科学的にも全く正しいかたちなのです。
残念ながら、人間の身体はとてもでこぼこしているので、渦を起こさないようなかたちになるのは簡単ではありません。
競技によっては、スピードを出しながらもいろいろな動作をしなければならないので、 空気抵抗が小さくなればどんなかたちや格好でもいい、というわけにもいきません。
中には、格好わるい、おかしな格好だなあと思うものもあるかもしれません。
でもそのかたちには、ちゃんとした意味があるのです。