札幌オリンピック(1972年)のジャンプ競技、ノーマルヒルにおいて日本選手が金、銀、銅メダルを独占したことは、現在でも冬季オリンピックの開催が近づくにつれ話題になります。
さて、札幌オリンピック当時のジャンプ、アルペン、スケートウェアはセーターとパンツの組合せでした。
それ以後、「より速く、より遠く、かつ安全に」を目標に、ウェアの改良・開発がなされてきました。
70年代の後半にはワンピース型のスーツが出現しました。
素材としては、縦にも横にも伸縮性のあるツーウェイトリコット(水着で使われているような生地)が全面的に使用されるようになり、着用感が飛躍的に向上しました。
80年代に入ると風洞実験を取り入れた科学的手法が開発に用いられるようになり、素材の表面摩擦抵抗を少なくしたスーツが開発されました。
さらに’90年代には5層構造の素材が開発され現在に至っています。
ジャンパーにかかる力の作用方向
揚力を増し抗力を少なくすることが、飛距離向上につながります。
70年代後半にはスーツの開発にも、いろいろな試みがなされました。
例えばジャンプスーツでは脇の下に羽を付けたようなスーツ(俗称:ムササピ型)や
スーツの前面部と背面部の通気性を大きく変え、飛行中に前面部から入った空気を背面部で溜め、滞空時間を延ばすスーツ(俗称:風船型)
などが提案されました。
しかし選手の安全性や競技の公正さから国際スキー連盟(F・I・S)による規制が設けられるようになり、このようなスーツはすべて改良や変更を余儀なくされました。
F・I・Sのルールでは;
など、その他、色々な制約があり、独創的でユニークな製品はできにくくなりました。
80年代からは飛距離向上をめざしたスーツの開発が始まりました。
図1は、飛行中のジャンパーに作用する力の作用方向を示したものですが、飛距離を伸ばすには、
が必要でず。写真1が素材表面抵抗を少なくするために開発された素材と従来素材です。
写真2の風洞実験を行うことにより揚力、抗力を測定し、飛距離向上のスーツが開発されました。
84年のサラエボオリンピックでは当時19歳の東ドイツのバイスフロッグ選手が、このスーツで金メダルを獲得しました。
90年代に入ると飛行スタイルもV字型へと移行し、それに伴いジャンプスーツに求められる機能も変わってきました。
そして風圧に負けず、型くずれのしない、軽くて伸びのある素ス材の開発が進められました。
これらの要求を満たすには、単一素材からだけでは不可能であり、素材の組合せが必要になってきました。
風洞実験による飛行特性、着用テス卜を繰り返し、開発されたのが図2の素材です。
長野オリンピックにおいても同じ構造の素材が使われています。
80年代はジャンプ用スーツとして開発された写真1の素材(表地)が、スケート、アルペン用スーツにも使用されました。
従来にないやわらかい肌ざわりと高い伸縮性があり、このスーツを着用した選手は口をそろえて「楽で圧迫感がない」という意見を残してくれました。
90年代に入るとスケート用スーツでは、形状抵抗を少なくすることが注目されました。
空気抵抗は:
に大きく分けられます。
写真3が(2)を実施したスーツで、アルベールビル、リレハンメルオリンピックで採用されました。
アルペン用スーツは素材のなめらかさに加え、身体を綿め付け空気の抵抗を小さくするウェアが開発されました。
この素材は、3層構造で中間層にはポリウレタン・エラストマーを用いています。