スピードスケートや陸上競技の短距離走などの選手は、太いももを持っています。
これらの競技ですぐれた成績を上げるためには、自分のからだを強く加速する必要があります。 加速のスピードは力に比例しますので、競技選手の太いももは、短い時間の間に強い力を出すためのものと考えられます。 このために、競技選手の太いももには、力のもととなる筋肉がつまっているのです。
ここでは、スポーツ競技選手のもものなかがどのようになっているのかについて、核磁気共鳴イメージング(MRI)という装置を用いた観察を中心に説明しましょう。
♦ 太いももを持っているスピードスケートの選手
(写真提供:月間トレーニングジャーナル)
MRIを用いると、生きたままの状態で、からだの内部の構造を調べることができます。
下の写真は、男子競技選手(ウェイトリフティング)と一般人女子の太ももの中央部の横断面をMRIを用いて搬影したものです。
一目見て、競技選手の方が、筋肉が太く(筋断面積が大きい)、皮下脂肪が薄いことが分かります。
この画像から、太ももの前側にあって膝を伸ばす筋肉と、太ももの後ろ側にあって膝を曲げる筋肉の横断面積を測ると、それぞれ写真の下の表のようになりました。
下の図は、等速性筋力計という装置を用いて、MRIの画像で示した競技選手と一般の人の膝を伸ばす筋カと膝を曲げる筋力を測定した結果です。 いずれの筋力も、競技選手のほうが2倍ほど大きく、この大きな筋力が、高い運動能力の基礎となっていると思われます。
♦ 競技選手と一般の人(MRIの測定と同じ被験者の筋力
次に、それぞれの筋力を、膝を伸ばす筋肉の横断面積と膝を曲げる筋肉の横断面積でそれぞれ割って、断面積当り(1平方センチあたり)の筋力を計算してみます。
すると、下の図に示すように、競技選手と一般の人との間で、あまり大きな差がないことが分かります。
♦ 競技選手と一般の人(MRIの測定と同じ被検者)の単位断面積(1平方センチ)当りの筋力
同様の方法を用い、競技選手(ラグビー)と一般の人の、合計10名について、膝を伸ばす筋力と膝を伸ばす筋肉の横断面積の間の関係を調べた結果が下の図です。
やはり、競技選手の方が筋力が大きく、しかも筋断面積も大きいことが分かります。
全体として見ると、筋力は筋断面積にほぼ比例していて、競技選手が大きな力を出せるのは、主に筋肉が太いためであると考えられます。
筋力が大きい小さいということは、この他にも、神経の能力や、筋肉の性買にも関係していることが分かっています。
♦ 競技選于(6名)と一般の人(4名)との、筋力と筋断面積の比較
これまでに説明したように、スポーツの原動力となる筋力は、まず第一に筋肉の太さで決まります。
なぜそのようになるのかを考えるために、筋肉(シロネズミのふくらはぎ)の内部を電子顕微鏡で観察してみます。
下の写真は、筋肉を構成している筋線維の横断面を約15,000倍に拡大して撮影したものです。
無数の点のように見える構造がびっしりとつまっていることが分かります。
♦ Sシロネズミ(ラット)のふくらはぎの筋肉の横断面を電子顕微鏡で観察したもの。(倍率 ×15、000)
これらの点のように見える構造をもう少し詳しく観察するために、上の写真の一部を、約65,000倍にまで拡大してみましょう。
点のような構造には、大きな点と小さな点があり、これらが正六角形を描くように規則正しく配列しているのが分かります。
これらの2種のフィラメントは、同じような電気的性質を持っているために互いに反発し合い、最も安定した状態として、写真に示すような正六角形の配列をとるものと考えられています。
したがって、競技者でも一般の人でも、またヒトでもネズミでも、一定の筋断面積当りに含まれる太いフィラメントと細いフィラメントの数は、基本的には変わらないことになります。
このことから、筋力の強さは、筋断面積が大きいか、小さいかによって決定されると考えられます。
♦ 上の電子顕微鏡像をさらに拡大したもの。(倍率:×65,000)