「カチャ、カチャ」とスケートリンクに響く奇妙な音。
スケートの靴と刃(ブレード)が付いたり離れたりするスラップスケートの音です。
長野オリンピック直前の1996年から一流選手がこのスラップスケ-トを使いだし、次々と世界新記録が誕生したため、“魔法の靴”とも呼ばれています。
なぜこの“魔法の靴”スラップスケートでたくさんの世界記録が出るのか、ここではその秘密を探ってみます。
下の写真は、スラップスケート開発者のひとり、オランダの、ヨス・デ・コーニン博士です。
このスケートは、従来は固定されていたブレ一ドと靴のかかと部分が、キックするときに離れ、空中でバネの力により戻るしくみになっています。
ブレードと靴が離れるスケートは、今から100年以上も前にドイツで考え出されたといわれています。
そして、およそ14年前からオランダの研究グループとスケートメーカーが協力し、軽くて丈夫なスピードスケート選手用の「スラップスケート」を開発しました。
この図は、従来のかかとの離れないスケート(上)とスラップスケート(下)のキック動作を比べたもので、下に向いた矢印は氷に伝わるキックの力の大きさを示しています。
上下の写真を比べると、左からみて1枚目から4枚目までの矢印(キックの力の大きさ)は同じです。
しかし、一番右の写真の時には、従来のスケートでは矢印が出ていないのに、スラップスケートではまだ小さな矢印が出ています。
そのため、上の青で囲まれた部分の面積よりも、下の赤で囲まれた部分の面積のほうが大きくなっています。
囲まれた部分の面積は、氷に伝えられたキックの量を示しており、スラップスケートでは、ブレードからかかとが離れることによって、たくさんの力を氷に伝えることができることがわかります。
そして、たくさんの力が氷に伝わるのでスピードが出るのです。
この絵は、上が従来の(かかとの離れない)スケート、下がスラップスケートのキックの動作で、矢印の長さは左右のつま先の距離を示しています。
矢印の長さを比べると、スラップスケート(下)の赤い矢印が、従来のスケート(上)の青い矢印よりも長いことがわかります。
矢印の長さが長いことは、キックによってからだを大きく前に運んでいることを意味します。
スラップスケートでは、かかとが浮くことによってからだをより前に運ぶことができるといえます。
このことは、かかとを地面から離さない(あげない)ように歩くよりも、かかとを浮かせて歩いた方が、からだを前に運びやすく歩きやすいことからもわかります。